ロビーに飾られたシーサーが、午後の光を受けて色鮮やかに輝いていた。
夫の大志がフロントでチェックアウトの手続きをしている間、志保は娘の璃子とソファに腰掛け、窓ガラス越しに見える海を眺めていた。
波は穏やかで、光の粒が水面を転がるようにきらめいている。
「璃子ね、今日のダイビングが一番楽しかった!」
先月8歳になったばかりの璃子が、足をぶらつかせながら笑った。小麦色になった頬が、白いワンピースに映えている。
「そうね、魚いっぱい見られたもんね。あの黄色いの、名前なんだっけ?」
「うーん、なんとかチョウチョウウオ!」
得意げな声に、志保はついほほ笑む。正確ではないが、訂正する気にはならなかった。
今回の沖縄旅行は、思っていた以上に充実していた。
海辺を歩き、地元の市場で南国の果物を味わい、夜には浜辺で花火もした。璃子はいつも以上によく食べ、よく笑った。お土産は既に本島で十分過ぎるほどそろえたのに、どうしてもとせがまれて、この離島でも似たようなお菓子や貝細工を買ってしまった。こうして志保は、ついつい娘の笑顔を優先してしまう。――でも旅行中くらいは、甘やかしてもいいじゃない。そう自分に言い訳しながら。
「お待たせ」
大志が領収書を手に戻ってきた。アロハシャツの襟元には潮の香りがまだ残っているようだった。
「港までのバス、あと20分で出るって」
「ありがとう。じゃあ、そろそろ行こうか」
ロビーを出ると、日差しがまだ強く、アスファルトが熱気を返してきた。荷物を抱えてバス停まで歩く道すがら、璃子は海で拾ったサンゴのかけらを手に、ずっと上機嫌でしゃべり続けていた。
バスが来ると、運転手は「ようこそ」の笑顔で迎えてくれた。出発してしばらくは、窓の外に広がる海がまぶしかった。遠くの水平線がゆるやかに揺れ、ヤシの木が風に揺れている。
ところが、港まであと少しというあたりで、空の色が急に濃くなった。まるで誰かが水墨をにじませたような灰色の雲が、じわじわと島を覆っていく。