次々と宿泊を断られ…
ロビーの片隅で、志保たちは片っ端から宿泊施設に電話をかけた。しかし、どこも「本日は満室です」の一点張り。中には、「近隣もすべて埋まっていると思います」と先回りして断るところもあった。
時計の針は容赦なく進んでいく。窓の外では、灰色の雲が低く垂れ込め、風がヤシの葉を荒々しく揺さぶっていた。
「ママ……もう疲れた。早くどこかで休みたい」
璃子が志保の腕に顔を埋め、ぐずる声を漏らした。髪の先からはまだわずかに水滴が落ちている。
「もう少し待ってね。必ず泊まれる場所見つけるから」
そう言ってなだめる自分の声が、妙に遠くから聞こえた気がした。
「タクシーで別のエリアに行くか?」
「でも、この天気よ。移動するだけで危険かもしれないわ」
志保が首を横に振ると、彼はいら立ちをのみ込むように深呼吸をしてから、「だよな」とうなずいた。
観光客たちはレインコートを着込み、大きなキャリーを引きながら足早に去っていく。地元の人たちも、示し合わせたかのように一斉に動き出していた。それを見ていると、自分たちだけが嵐の中に取り残されているような感覚に襲われる。
「どうするの……本当に、泊まるところがない」
志保の声は、自分でも驚くほど小さかった。大志も答えられず、ただ璃子の手を握る。台風の気配は刻一刻と近づき、雨脚はさらに強まっていった。
この島で、夜をどう過ごせばいいのか。
答えは、まだどこにも見えなかった。
●バカンスを満喫していたはずが、今晩泊まる場所さえ見つけられなくなった志保たち夫婦。途方にくれる一家が遭遇した「予想外の出来事」とは!? 後編【「料金を倍払うので泊めてくれ」ホテルで夫が叫んだひと言を夫婦が恥ずかしく思ったきっかけとは…】で詳しくお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。