<前編のあらすじ>

幼い頃から母親の強い希望に従って進路を決めてきた美智子さん(仮名・40歳)は、努力を重ねて医師となり、周囲からは順風満帆な人生を歩んでいるように見えます。

しかし彼女自身の本当の夢は「家庭を守る専業主婦」でした。結婚よりも母の期待に応えることを優先してきた美智子さんでしたが、40歳という節目を迎えた今、自分の人生にほんの少しの疑問を抱くようになります。

そんなある日、美智子さんの母とともに訪れた結婚相談所で、彼女の心の奥に秘められていた本音が少しずつ姿を現していきます。

●前編:「医師になったのは私の夢じゃない」40歳独身女性が胸に秘め続けた“本当の望み”

母の期待に応えて歩んだ40年の道

美智子さんを医師にしたいというのは、母親の希望でした。

幼い頃から、自分の進路については母親の言うとおりにするものだと思っていた美智子さん。学費の心配がなく、母親が示す道を歩むことに何の疑問も抱いていませんでした。子どもが自分の意思を親に伝えることは、実はとても難しいことです。多くの子どもは、母親から「この学校がいいよ!」と言われれば、その通りにしてしまいます。美智子さんも母親の勧められるまま中高一貫校に通い、医大へと進学しました。

もしかしたら、医師は美智子さんの母親の夢だったのかもしれません。母親の世代は、経済的な理由や周囲の無理解から、進学を諦めなければならない女性はたくさんいました。

一方で、母親の願いを叶えるため医師になったため、美智子さんの専業主婦になりたいという夢は諦めるしかありませんでした。だからといって、美智子さんが後悔しているわけではありません。医師はそうそうなれる職業ではありませんし、美智子さんは親から相当の経済的な支援を受けたことに感謝しています。

ただ美智子さんが40歳を迎えるにあたり、母親は「果たして、これでよかったのだろうか」と疑念が湧いてきたようです。医師にしたことで、母親にとっては当たり前だった結婚の幸せを娘から奪ってしまった気になったのかもしれません。

そして婚活は思いのほか苦戦しました。美智子さんは、これまでは才能と努力によって、人生を切り開いてきました。しかし、結婚は相手のいることです。自分がいくらがんばっても結果はついてきません。

「ずっと言われた通りに真面目にしてきたのに、こんなの不公平だわ」

自分よりも学歴や年収が低い女性たちが先に結婚していく姿に戸惑ってしまいます。