レシートなしで返品を要求
「かしこまりました。では返品ということでよろしいでしょうか?」
「当たり前でしょ! いちいち聞いてないでさっさとやりなさいよ!」
怒声を浴びせられて小枝子は体が強ばる。
昔から小枝子は大人しい性格で人と喧嘩をしたり争いごとを避けて生きてきた。その甲斐もあって地味ではあるが、穏やかな人生を歩むことができていた。なのに今はこの客から執拗に怒られ続けている。
「では返品をさせていただきますのでレシートを見せてもらってもいいですか?」
小枝子がそう伝えると、女性客はむすっとした顔で答える。
「そんなのない。さっさとやりなさい」
その言葉に小枝子は戸惑う。
「あ、も、持ってらっしゃらないんですか……」
「そんなのイチイチ持ってるわけないでしょ! なんで私があんたたちのためにレシートをわざわざ保管しておかないといけないのよ⁉ あんなもんすぐに捨てたわよ!」
怒鳴りつける女性客に頭を下げた小枝子は、女性客に購入日などを聞いてバックヤードのパソコンで購入履歴を調べて、確認を取った上で返金をすることにした。
女性客は小枝子が手渡した110円を乱暴に受け取るとそのまま店を出ていってしまった。小枝子は大きくため息をついて、待っていたお客さんに頭を下げてレジ業務を再開させた。