優雅なグランピング施設
「着いたよ。思ったより人も少ないし静かだね」
車を停めると、目の前には木々に囲まれた広場と、白いキャンバステントがいくつか並んでいた。受付で手続きを済ませると、スタッフの女性が笑顔で案内してくれた。
「こちらがお客様のテントです。ベッドも冷房も完備してますから、安心してくださいね」
テントの中は、まるでオシャレなカフェのようだった。ベッドにはふかふかのブランケット、テーブルの上にはランタンと雑誌。自然の中にいるのに、どこか居心地のいい空間だった。
「すごい……ホテルみたいだ」
「でしょ? グランピングってこういうのらしいよ。ほら、虫が苦手でも安心ってやつ」
笑いながらそう言うと、彼も小さくうなずいた。
まだ完全にリラックスしているわけではないだろう。でも、明らかに自宅のベッドに埋もれていたときとは違う表情だった。
川辺を散歩したり、ハンモックに寝転がって空を眺めたり。会話はほとんどなかったが、それでも、隣にいて同じ景色を見ているだけで嬉しかった。
あたりがオレンジ色に染まり始めたころ、テント横のデッキで焚火の準備を始めた。スタッフがセットしてくれた薪に火をつけると、ぱちぱちと音を立てて炎が上がる。
「……落ち着くね、これ」
優典がそう呟いた。
「うん、いい音だし。炎って、ずっと見ていられるんだね」
それからしばらく、2人で黙って火を見ていた。虫の声と木の葉の揺れる音が、静かに流れていく。