運動をした方が良い
一方、夏海は、自他共に認める体育会系気質。嫌なことがあっても、一晩寝たらケロッとしてる。小学校のスポーツクラブ時代から、大学までずっとバレー漬けだった夏海にとっては、一緒に汗を流して人間関係を築くのが当たり前だった。
だから、ふさぎ込んでいる優典のことも、いの一番に運動に誘った。身体を動かして頭を空っぽにすれば、少しは楽になるかもしれないと思ったのだ。しかし、効果はなし。ジョギング、バッティングセンター、ボルダリング、トランポリン。少しハードルを下げて、散歩やスポーツ観戦を提案してみたが、いずれも一蹴されるか、すぐに帰りたいと言われるのが落ちだった。
「あ、いいかも、これ」
食後にスマホを何気なく眺めていると、大学時代の友人がグランピングに行った写真を投稿していた。澄んだ青空の下、テントとウッドデッキ、焚き火に揺れるオレンジ色の炎、カフェ顔負けの朝食。どれもおしゃれで、美しくて、何より、その友人の顔がとても楽しそうだった。
「自然のなかで、心が洗われる……か」
それは、今の夏海たちにぴったりな気がした。
「ねえねえ優典、今度の週末、出かけない?」
深夜になってようやく部屋から出てきた優典に向かって、夏海は明るい声で言ってみた。
「……どこに?」
「グランピングができるとこ。そんなに遠くないし、面倒な準備もいらないんだって。自然の中でのんびりできたらと思って……どうかな?」
少しの間があって、彼は小さく「うん」とうなずいた。「予約しとくね」と返した夏海は、嬉々としてスマホを開いた。