友人からの誘い

「ねえ、たまにはパーッと気晴らししない?」

レストランのテーブル越しに、真理が軽やかに言った。彼女の指先には、最近流行っているというマーブル柄のようなニュアンスネイルが施されている。

「気晴らしって……何するの?」

緑子はアイスティーのグラスを持った手を止めたまま、ぼんやりと彼女を見つめた。

「競馬場。ほら、府中にある。今日やってるの、ちょっと行ってみない? 午後からレースあるし」

「え、競馬?」

「いいじゃない、当たれば儲けもの。当たらなきゃ、話のネタ!」

真理はそう言って、悪戯っぽく笑った。

結婚してから疎遠になっていた真理と再び交流を持ち始めたのは数年前、彼女が離婚して実家に戻ったと連絡があったときからだ。

真理に子どもはいない。だからこそ、こうしてたまにランチをするのがいい息抜きにもなっている。

だが、きっと満たされたない気持ちがあったのだろう。息が詰まるような家にいて、どこにも向かうことのない人生に飽きていたのかもしれない。

「……まあ、ちょっとくらいなら」

緑子は、半ば自分でも信じられないような気持ちでうなずいていた。