中小企業や個人事業では、親の事業を子どもが引き継ぐ「事業承継」は珍しいことではありません。しかしその引き継ぎの中には、目に見えない“隠れ債務”が潜んでいることがあります。今回は、代表交代直前で発覚した巨額の未納消費税により、倒産寸前だった女性の実話を通じて、事業承継のリスクについて考えてみます。
地元に愛されてきたラーメン店を継ぐことになった女性
佐伯円さん(仮名・40歳)は、父が営んできた地元のラーメン店を継ぐ決意をしていました。小さなころから厨房に立つ父の背中を見て育ち、学校から帰った後、休日には母と一緒に店を手伝うのがいつもの光景でした。常連客も円さんの成長を温かく見守ってくれる人ばかりで、看板娘だった円さんを可愛がってくれる常連客たちを、円さんも大好きでした。
自分が育ってきた家も同然なこの店を円さんは継ごうと決意しましたが、経営の知識も何もなかったためにオンラインセミナーで出会った中小企業診断士に相談し、決算書の読み方や資金繰りの管理、経営計画の立て方などを学び始めました。
さらに地元の飲食店経営者の紹介で全国規模の飲食業勉強会にも参加し、全国の店舗の取り組みや成功事例に触れることで、少しずつ経営者としての視野を広げていっていました。
そして、実際に診断士に決算書を見てもらうと、資金繰りには余裕がなく、薄利多売で回している状況が浮き彫りになりました。そこで診断士にコンサルとして入ってもらい、メニュー変更による客単価アップや業務効率化による人件費削減など、改善に向けた具体的な取り組みを始めていた矢先のことでした。