突然の訃報、見つかった遺言書
とはいえ、独身の叔母には親しい友人もいないらしく、いざという時には唯一の親族である私や弟が面倒を見ることになるのだろうという覚悟のようなものはありました。
そうした中で、その叔母が昨年末、急に亡くなったのです。
前日までは元気に仕事をしていたのに、その日、昼過ぎになっても姿を現さない叔母を心配した古参の従業員が自宅を訪ね、倒れている叔母を見つけたそうです。急性心筋梗塞で、発見時には既に息をしていませんでした。
叔母の訃報を聞いて、私と弟は取るものも取りあえず父の実家に駆けつけ、行政上の手続きや葬儀の手配などを行いました。その際気になったのが、古参の従業員が叔母は遺言書を書いていたはずだと話していたことでした。しかし、叔母の家から不動産の権利証や預貯金通帳は見つかっても、遺言書らしいものは見つかりませんでした。
金融機関の貸金庫を利用した形跡もなく、法務局の遺言書保管所に問い合わせても叔母から遺言書を預かってはいないとの返事でした。
やっぱり遺言書なんてなかったんじゃないか。そんなふうに思い始めていた矢先、家庭裁判所から呼び出しを受けたのです。叔母の遺言書の検認(遺言書の存在や内容を相続人に知らせる手続き)を行うとのことでした。
紙切れ1枚で消えた数億円の遺産
叔母の遺言書を預かっていたのは、ある宗教系団体の弁護士でした。私は、その弁護士が叔母の葬儀に参列していたのを覚えていました。見かけない顔だったので、叔母とどんな知り合いだろうと訝っていたのです。
驚いたのは、その遺言書の内容でした。A4の紙切れ1枚のシンプルな遺言書には、叔母の個人資産、事業所を含めた全財産をその団体に遺贈すると書かれていたのです。
私たちきょうだいは普段から叔母と交流があったわけではないので、叔母がどんな字を書くのかは知りません。しかし、2年ほど前の日付や、叔母の署名、押印のあるその遺言書は成立要件を満たしていると判断されました。
小さな事業所だと言いましたが、叔母の個人資産も含めれば評価額は数億円に上ります。紙切れ1枚でそれだけの財産が私たちの親族から、その時点で名前も知らなかった団体へと渡ってしまったのです。
私たちはただただ唖然とするだけでした。こんなことが本当に自分たちの身に起こり得るものなのか、半信半疑でした。
別に叔母の遺産を当てにしていたわけではありません。むしろ、二人とも事業所の経営を任されたりしたら面倒だなくらいに考えていました。しかし、私たちの代で一族の財産が訳の分からない団体に持っていかれるとなれば話は別です。
慌ててその団体について調べてみたのですが、法令違反などの案件は特に見つかりませんでした。
事業所の顧問税理士に連絡したら、税理士も絶句していました。いわく、配偶者や直系血族であれば遺留分侵害額の請求と言って、本来受け取れるはずだった財産の2分の1なり3分の1なりを請求する権利があるそうですが、兄弟姉妹や甥姪にはないのだとか。
税理士から「社長の親族や相続人の状況なども見越して遺言書を書かせたのではないか」と聞かされ、こんなやり方が許されるのかと激しい憤りを感じました。