<前編のあらすじ>

正美は大学生になる息子・大祐と夫との3人暮らしだ。勉強一筋のはずの大祐だったが、ある日、女性と共に歩く姿を正美は目にする。驚き思わず声をかける正美。平静を装ってはいたが、なれなれしく我が子に触れる女性の姿に正美の心中は穏やかではなかった。女性の名前は怜奈といった。

家に帰ってきた大祐に聞けば怜奈は彼女なのだという。金髪にブランド物のバック、見た目は派手な怜奈。正美の胸中にあったのは「我が子は騙されているのでは」という思いだった。

正美はよかれと思い大祐に懸念を伝えるのだが……。

前編:「どういう意味だよ…」勉強一筋の大学生の息子にできた金髪の派手な彼女 母親がつぶやいた絶対に言ってはいけない一言

夫にもたしなめられ

「ねえ、あなた、ちょっといい?」

その夜、仕事から帰ってきたばかりの夫に正美は声をかけた。スーツを脱ぎ、ビールを開けたばかりの彼は、面倒くさそうにこちらを見た。

「何?」

「今日ね、大祐の彼女に会ったの」

夫はグラスを口に運びながら、「へえ」と気のない返事をした。

「それでね、ちょっと派手な感じの子で……正直心配なの。まだ学生だし、デート代も大祐が出してるみたいだし……」

正美は言葉を選びながら、慎重に話したが、夫はあっさりと笑って言った。

「学生同士の恋愛だろ? 結婚するわけでもあるまいし、そんなのいちいち気にすることないよ」

「でも……」

「正美、あんまり干渉しすぎるなよ。反発するだけだぞ」

その言葉に、正美は口をつぐんだ。

確かに、正美は大祐を質問攻めにして怒らせてしまった。でも正美は母親だ。たとえ嫌われたとしても、息子の未来を守りたい。

「……でも、もし大祐が騙されていたら?」

「それはそれでいい経験だ。心配しすぎると疲れるだけだぞ」

そう言って夫は空になったグラスをテーブルに置き、立ち上がった。寝室へと向かう足音が遠ざかっていく。テーブルに取り残された正美は、夫のグラスを流しに運びながら深くため息をついた。

家族のことを思っているはずなのに、誰にも理解されない。

その孤独が、夜の闇よりも深く、正美の心に広がっていった。