タツオは見つからず……
連絡先を交換し、翌日から「神技のタツオ探し」が始まった。
平日であれば仕事を定時きっかりに退社したあと、休日であればゲームセンターのオープンと同時にイツキと合流。なるべく大きなゲームセンターを回りながら「タツオ」の目撃情報を探す。
しかし「タツオ探し」は難航した。そもそもどんな人物なのかすら特定できなかった。新宿ではとても小柄なおじいさんだと言われ、池袋では熊のような大男だと聞いたと教えられる。
原宿ではセーラー服を着た細身の青年でもあったし、吉祥寺だと逆立ちしながら足でゲームをすると言われた。そんなわけがない。どれも有益な情報とは言えなかった。
「まあ、元気だしなよ」
イツキが掛けてくれる声にうんともすんとも返せず、プリクラ機の脇にあるスペースに座りこんだ智子は深いため息をつく。
このままでは手に入らないかもしれない。実際、入れ替わりの激しいクレーンゲーム景品はすでに月が替わったことで新作が出始め、人気がなかったり単に古かったりするグッズから順に撤去され始めている。
〈さらりん〉はそもそもがニッチなキャラクターなので、動きが悪いと判断されれば真っ先に撤去候補に挙がりかねないだろう。実際、昨日3日ぶりに訪れた池袋のゲームセンターから哀愁漂う苦悶の表情を浮かべるさらりんは消え去っていた。
「見つからないし、今日はひとまず帰ろうよ。また明日、新宿のいつものゲーセン集合で」
イツキはそれだけ言うとあっさりと帰っていった。いや、帰っていったかは分からないが、とりあえず智子のもとからは去っていった。彼女からすれば、これはただ単に面白い遊びのひとつにすぎない。けっきょく、必死になって「タツオ」を探しているのは智子だけだった。