<前編のあらすじ>
「母にがんが見つかりました。この先もう長くはないかもしれません。ひきこもりの妹の生活に備え、今からできることをしておきたいと思います」
筆者との面談でそう話したのは、ひきこもり当事者の姉(49歳)。ひきこもり当事者は染谷亮子さん(仮名・47歳)で、20年以上ひきこもり状態です。父親はすでに亡くなっており、母親(80歳)と2人で生活しています。今は母親が受け取っている遺族年金と老齢年金で生活を維持できていますが、母親が亡くなった後の生活の見通しは立っていません。
初めは母親の死期が近いことを受け入れられなかった亮子さんですが、母親からの説得もあり、一人暮らしに向けて少しずつ準備を始めました。そこから1年ほどがたち、とうとう母親の入院が決まります。
●前編:【「お母さんがいなくなっても生きていけるように…」ひきこもり歴20年・47歳娘に、寿命の迫る母が伝えた「最後の願い」】
母亡き後も、残された子の生活は続く
母親が入院している間も、亮子さんは訪問診療による受診を継続していきました。そして訪問診療の初診から1年6カ月が経過した頃。筆者は障害基礎年金の請求を完了させました。
その結果、亮子さんは障害基礎年金の2級を受給することができました。金額は、障害基礎年金と障害年金生活者支援給付金で月額換算すると7万3310円(2024年度の金額)。これだけでは生活費が足りないこともあるので、時には母親の貯蓄を取り崩すこともあります。貯蓄が底をつくことを恐れている亮子さんは、できるだけお金を使わないような生活をしているそうです。
1日のほとんどを同じ部屋で過ごす。電気やエアコンの使用は必要最小限にする。入浴や着替えはおっくうなので2日~3日に1回できればよい方。洗濯は週に1回程度。母親が入院した後も、亮子さんは姉にも助けてもらいながら何とか生活を続けることはできました。
そしてついにその日はきました。母親が病院で静かに息を引き取ったのです。
亮子さんは親族と顔を合わせたくないとのことで、母親の葬儀に出席することはしませんでした。相続人は亮子さんと姉の2人だけ。姉妹で話し合い、相続財産である自宅と貯蓄の700万円はすべて亮子さんが相続することにしました。
姉は、母親が亡くなったことで亮子さんのうつ病が大きく悪化してしまうことを心配していました。しかしそれは杞憂だったようです。
母親亡き後を想定してしっかりと準備をしてきたからか。
これからの自分の生活のことで頭が一杯になっているからか。
真相は分かりませんが、亮子さんの病状は大きく悪化することはなかったそうです。