収入確保のために必要なのは医師の診断書
亮子さんは無収入なので、まずは収入を確保するところから考えることにしました。筆者は社会保険労務士として障害年金の代行請求の仕事もしています。亮子さんには抑うつ症状があるとのことなので、障害年金の請求を検討することしました。ただし、障害年金を請求するためには医師の診断書が必要になります。
その話をした途端、姉の表情はさらに曇り出しました。
「妹は外出が容易ではありません。なので、今まで精神科や心療内科を受診したことはありません。何かよい方法はありますでしょうか」
「それならば、自宅に訪問診療をしてくれる病院を探すところから始めてみましょう。自宅圏内にある訪問診療の病院はインターネットで探せます。ただし、障害年金はすぐに請求できるわけではありません。法律上、その障害で初めて病院を受診した日から1年6カ月後になります」
「1年6カ月後……。そんな先になってしまうのですか。でも法律でそうなっているのであれば仕方がありません。妹の受診に関してはこちら側で何とかします。もうやるしかないので」
姉は決意を込めた目でそう言いました。
母親に死が迫っている事実を受け入れられない
筆者との面談後、姉は亮子さんと母親の3人で話し合いをすることにしました。この時、姉は亮子さんに母親にがんが見つかったことを初めて告げました。そして、これから母親亡き後の生活に備え少しずつ準備をしていきたい。そのために、まずは医師の診療を受けて、障害年金の請求を進めてくことになる、と伝えました。
急な話に亮子さんの理解は追いつきません。あまりのショックからか、亮子さんは「人と会うことはしたくない! 受診なんてしたくない! お母さんが死んだら、私もすぐに死ぬからいい!」とわめき散らしました。
亮子さんの態度に姉が困り果てていると、それまで黙っていた母親が静かに口を開きました。
「お母さんはずっとあなたの側にいてあげたいけど、それができなくなってしまうの。あなたに寂しい思いをさせてしまうことになるけど、どうか許して。お願いだから、お母さんがいなくなってもあなたが生きていけるように、今から準備しておいてほしいの」
母親は涙を流しながらそう訴えました。
死期を悟った母親の言葉に、亮子さんはその日、それ以上何も言えなくなってしまいました。