ひきこもりのお子さんの中には、親御さんと同居しているケースが多く見受けられます。「親が亡くなったら、この子の生活はどうなってしまうのか?」と心配している親御さんも多いことでしょう。いつかは訪れる親の死。その厳しい現実を乗り越え、お子さんは生きていかなければなりません。親御さんが存命中にできる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。また、ひきこもりのお子さんに兄弟姉妹がいる場合、どのような相談ができるのでしょうか。

親亡き後に備え、今からできること

「母にがんが見つかりました。この先もう長くはないかもしれません。ひきこもりの妹の生活に備え、今からできることをしておきたいと思います」

筆者との面談でそのように話したのは、ひきこもり当事者の姉(49歳)。

筆者は姉から事情を伺うことにしました。

ひきこもり当事者は染谷亮子さん(仮名・47歳)。亮子さんは20年以上ひきこもり状態にあり、高齢の母親(80歳)と2人で生活をしています。父親はすでに亡くなっており、収入は母親が受け取っている遺族年金と老齢年金のみ。母親が生きている間は何とか母子2人の生活は維持できていますが、母親が亡くなった後の生活の見通しは全く立っていないとのことでした。

そこで筆者は次のような質問をしてみました。

「パートでもよいのですが、亮子さんは働くことは難しいのでしょうか?」

「働くことはできないと思います。妹は『人目が怖い』と言って外出ができていませんし、長年のひきこもり生活のせいで抑うつ症状も出ているようです」

筆者はさらに質問をしてみました。

「お母さま亡き後、亮子さんはお姉さまと同居することは難しいのでしょうか」

すると姉は申し訳なさそうな表情になりました。

「私は結婚して家庭を持っており、母と妹とは別居しています。夫は妹と関わることをかたくなに拒んでいるので、母亡き後は一人暮らしになってしまうと思います」

「なるほど。そうですか……」

今回のケースに限ったことではありませんが、親亡き後の生活に向けて考えることはたくさんあります。本人の収入の確保。住まいの確保。家事はできるのか? 困った時は誰に頼るのか? これらを一度にまとめて解決することは困難なので、ひとつずつクリアしていくことになります。