終活という言葉が少し前に社会現象となり、ある意味遺言書を作ることが流行った時期もあった。その影響からか近年、遺言書が2つ見つかる事例が少しずつ出てき始めている。なぜそのようなことが起こるのか、そしてもし遺言書が2つ見つかった場合はどうするべきなのか。私の対応した田中家の事例で解説していこう。

父親の書斎から見つかった2つの遺言書

都内の一角にたたずむ古びた一軒家。その家の主である田中義一さん(仮名・享年80歳)が亡くなり、悲しみの中で家族が遺品整理を進めていた。

田中家の家族構成は、長男の太郎さん、次男の次郎さん、そして長女の美咲さんの三兄弟。義一さんは生前、特に財産のことについて具体的な話をしていなかったが、長男の太郎さんは「父の遺産は当然長男が中心に管理するべきだ」と考えていた。実際、義一さんは酒が入るたび「遺産はすべて太郎が管理しろ」と口癖のように言っていた。

一方、次郎さんと美咲さんは「遺言書に記載されている父の遺志に従うべき」と考えており、兄弟間で多少の温度差が生じている状況だった。

そんな中、義一さんの書斎で遺言書と思われる封筒が2つ見つかる。1つは2010年の日付、もう1つは2020年の日付が記されていた。