家族から消えていく笑顔

そして受験の日が近づくにつれ、一美から放たれる空気はますます殺伐としていった。美織の生活すべて、――遊ぶ時間でさえも、受験のためのものとなっていた。

「いい? 暗い色でお絵かきなんてしたら、心に問題がある子なのかなって思われちゃうのよ。だから明るい色で画用紙いっぱいに描くの」

美織がお絵かきしているそばから、一美が事細かく口を挟む。

「何を描きましたかって聞かれたら、なんて答えたらいいと思う?」

美織が上目遣いでもじもじしながら答える。

「……パパとママ?」

「違う! パパとママを描きました、でしょう? それと赤い色で空を塗りつぶすのはだめよ!」

さらに一美は自分で面接の質問集と回答集を作成し、何度も美織に暗唱させた。渋る康にも、「美織のためなのよ」と説き伏せ、すべてを暗記させた。不意打ちで質問をしても、即完璧に答えられるようになるまでそれを続けた。

いつの間にか家から笑顔が消えていた。その状況に胸が痛むことはあったけれど、「今だけ、今頑張ればこの先の美織の人生は安泰なのだから」と、一美は心を鬼にし、受験の日を迎えた。緊張はしたが、やれるだけのことはやった。

完璧よ、完璧にできたはず――。

その日の面接を何度も反芻しながら、一美は美織と康とともに家路についたのだった。