偽造を疑う浩美さん
どれだけ説明を尽くしても理解しない浩美さんに対して隆人さんは「親父との契約書があるから見てくれ!」と契約書を突き付ける。
時間がたち多少冷静になった面もあるのか浩美さんが契約書を見る。そこで浩美さんは“大きな穴”を見つけることになる。
その穴とは、「押印が実印でないこと」だ。一般的に重要な場面における契約書は実印での押印を行うものだ。実印での押印のない契約書なんて信用できない! そう考えた浩美さんが指摘する。
「この契約書、偽造なんじゃない? 印鑑が実印じゃないけど」
それに対して隆人さんが即否定する。
「違うって! 税金とかの兼ね合いがあるから一応作ったんだよ。一般的なお互いを縛るための契約書とは違うからわざわざ実印で印鑑押してないだけ!」
ある意味では両者とも言い分に間違いはない。一般的に重要な契約書は実印で押印するものであるし、実印での押印のないものは当然に偽造を疑うべきであるからだ。一方で、契約書は必ずしも実印での押印が必要ない。
特に今回の隆人さんと父との間で結ばれた契約はいわゆる贈与契約だ。お金を対象とした贈与契約の場合、契約書がなくとも実際に金銭の授受があれば成立する。税金の申告などに備えた目的で契約書を作るというケースなら、実印でない印鑑で押印することもあり得るだろう。
このままでは話し合いは永遠に終わらず平行線が続くことは誰にでも容易に想像できた。隆人さんはもちろん、疑惑の目を向ける浩美さんも……だ。
平行線での話し合いが2カ月ほど続いたある日、浩美さんがしびれを切らしこう啖呵を切った。
「もうあんたとは一生かかわりたくない。裁判するわ」
これには隆人さんも驚きこう発言する。
「待ってくれ! 契約書を作成してくれた先生を呼んでくる」
●父親の通帳履歴をきっかけに溝ができてしまった姉と弟。2人の間の確執は深まるばかりで……。トラブルの結末は、後編【「家族の絆なんてないんですよ」生前贈与が相続争いの火種に…弟を追い詰めた姉の「強硬手段」】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。