親から子へまとまったお金を渡すことは古今東西星の数ほど行われており、決して珍しいものではない。しかし、そこで契約書の有無や、契約書の内容が有効か無効かをめぐり相続争いが起きることはあまり意識されていないようだ。今回は贈与契約書を作成したにもかかわらず相続争いに発展した長澤家の事例を紹介する。

長澤家で起きた相続争い

「は? なによそれ」

大きな女性の声が鳴り響く。彼女の名前は長女の浩美さん(仮名、以下同)。それに対して「黙っててごめんなさい、父さんからはわざわざ伝える必要はないと言われてたんだ……」と説明をするのは弟の隆人さん。

ことの経緯としてはこうだ。2年前、隆人さんが姉の浩美さんに内緒で父親からおよそ500万円もの金銭支援を受けていた。その当時、父の治さんと隆人さんとの間で贈与契約書を作成していたのだが、その件について浩美さんには告げていなかった。その事実が2年後の今、治さんが亡くなったことで遺品整理中に通帳の履歴から発覚したというものだ。

浩美さんはさらに激昂する。

「ずるい! 遺産をネコババするつもりだったんでしょう⁉」

隆人さんがそれに反論する。

「話を聞いてくれ、俺は遺産をネコババしたくてお金をもらったことを黙っていたわけじゃないんだ!」

隆人さんが父から贈与を受けたのは、中学から大学まで一貫して私立の学校に通った浩美さんとは違い、高校まで公立校に通い、卒業後は就職を選んだことの差による姉弟格差を鑑みてのものだった。

隆人さんはことの経緯を簡単に説明する。しかし、浩美さんは「そんなこと私は知らないし、関係ない」と理解を示そうとしない。