結婚とか、そんなに焦らなくてもいいんじゃない?

次の週末、2人は一緒にショッピングモールを回ることになった。

雅子は思いのままになるマネキンを手に入れて少し楽しんでいるようにも見えたが、選ぶ服はどれも正志の肌になじむのか。鏡の中には派手さこそないがどこか肩の力が抜けた自分の姿が映っていた。「自分らしい」というのは、こういうことなのかもしれないと思った。

雅子に言われた通りの洋服を一式買いそろえ、休憩がてらフードコートに立ち寄った。

「で、続けるの? 婚活?」

「まあ、そうだな。もう1回やってみてもいいかなとは思ってる」

「ふーん、でもさ、結婚とかそんなに焦らなくてもいいんじゃない?」

「いや」と、反射的に口を開いた正志に、雅子が言葉を重ねた。

「本当に良い相手を見つけたいなら、自分をちゃんと見せることが大事なんじゃない? 着飾ったって、意味ないと思うけどなあ。スペックだけで人の価値が決まるわけじゃないし」

雅子の言葉は、核心を突いていた。やはり結婚と離婚を経験しただけあって、その言葉には妙に含蓄がある。

それに正志も身をもって理解した。実際、見えを張って自分を大きく見せても、なにも良いことはなかった。

だがそれも当然だろうと今になってみれば素直に思える。

正志自身、相手は自分の持ち物や見た目で判断してくるだろうと考えて着飾った。アプリで出会った金目当ての女性たちに不満を持っていた正志だったが、今思えばお互いさまだった。

「確かに、そうかもな……」

正志は改めて雅子を見つめた。

その笑顔は昔と変わらず、どこか安心感を与えてくれるものだった。

「雅子、服のお礼に今度おごらせてよ。何かおいしいものでも食べに行こう」

「えっ、いいの? それじゃあ、おでん食べたい! 私、安くておいしい店知ってるんだよね」

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。