妻の親友への祝儀を渋る夫

そうして迎えたランチの日。友達と会えたことは楽しかった。節約ご飯じゃないランチはとてもおいしかったけれど、真悠には悩みの種がまた1つ増えていた。

どうして少し楽しく生きていきたいだけなのに、こんなにもお金がかかるのだろうか。けれどこの悩みに関しては、自力ではもうどうすることもできない。夜、慧佑に話をすることにした。

「この間さ、ランチに行くって言ってたじゃない」

「ああ」

慧佑は新聞の経済欄を読みながら、適当な相づちをしてくる。

「今日、行ってきたの。そしたらその子がね、結婚するってことになって」

「……で?」

慧佑はもう真悠が何を言い出すのかを理解している。知ってて聞かれるのはいい気分じゃないけれど、背に腹は代えられないから真悠は口を開く。

「私も式に出たいから、ご祝儀とか、洋服代を出してもらってもいいかな?」

慧佑はため息をつきながら、新聞を折りたたむ。

「……どうしても出席しないといけないものなのか?」

「だって、親友の結婚式なのよ。出席したいじゃない」

慧佑は腕を組み、しばらく考えてうなずく。

「分かった。祝儀は3万だな。それは出そう」

「あと、ドレスとかヘアメイクもしたいんだけど……」

「それは勝手にしろ。俺は知らん」

「でも式に参加するためのドレスは昔のもので、今はもうだいぶ痩せちゃって体形に合わないし、ヘアメイクだって皆しっかりとしていくものなの。それはマナーだから」

「いつも行ってる美容室に頼めば良いだろ?」

女心が分からないとか、そういうレベルではないんじゃないだろうか。人として、というと大げさかもしれないけれど、慧祐にはそういうマナーや思いやりとか、そういうものが決定的に欠けていた。

「あんな、激安カットのお店でそんなことできるわけないでしょ。あそこは最低限のことしかやってくれないんだから……!」

真悠は思わず声を荒らげる。けれど慧佑は冷めた目線を真悠に向ける。

「あれこれと理由をつけて、単なる浪費をしたいだけにしか聞こえないな」

その瞬間、真悠のなかでたまっていたものがはち切れた。

慧佑の倹約は度を過ぎている。どうしてそこまで徹底するのか、さすがにもう分かっていた。仕事をしていない真悠への当てつけだ。慧祐は、自分の稼ぎで真悠が悠々自適に暮らすのが許せないのだ。慧佑が働いてくれていることへの負い目もあって、これまでずっと我慢していたけれど、もうさすがに限界だった。

「私はさ、普通にお友達の結婚式を祝いたいだけなの!」

大声を出した真悠に慧佑は驚きつつも、言い返してくる。

「俺はいつも、将来のためにお金をためるのが大事だと口酸っぱく言ってるのに、真悠だって全然理解してくれないだろ……!」

「分かってるよ。分かってるから、文句も言わずにやってきたじゃん。でも、将来のことが大切なのも分かるけどさ、私は今の生活だって楽しくやりたいよ。別にぜいたくな暮らしをしたいってわけじゃなくてさ、たまのランチとか、友達の結婚式とか、それくらいの楽しみがあったっていいじゃんか!」

慧佑は眉間を指で押さえる。

「……いいか、老後には月30万の生活費が必要と言われている。病気をすればもっとかかるかもしれない。そこに老人ホームの入居費用が必要となると、金はどれだけあっても足りないんだよ。そんな話は結婚前からしていて、真悠も了承していたはずだ」

「そうだね。結婚前はデートに連れて行ってくれたり、外食だってしてた。もっと普通だったから、私だって理解できた。でも、結婚してから、一緒に遊びに行くこともなくなった。こんなの節約じゃないよ。単に私と出歩くのが面倒くさいだけでしょ!」

真悠は積年の不満を慧佑にぶつけた。それに対して慧佑はあきれたようなため息を吐き、これ以上もう話すことはないと言わんばかりの態度でリビングを出て行ってしまった。

このとき真悠は、2人の間に決定的な溝が生まれたような気がした。

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※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。