広々とした都内、2LDKのマンションのリビングの椅子に座り、真悠は頭を抱えていた。机の上に広げた真悠の財布には、1000円札が1枚しか入っていない。夫の慧佑から生活費を渡される25日までは、あと1週間ある。つまり残り1週間、1000円で生活をしないといけないということだ。

冷蔵庫には野菜が少し残ってはいるけれど、メインの材料となる肉や魚はもうほとんど残っていなかった。この分は確実に買い足しをしないといけないだろう。自分の朝、昼のご飯は諦めるにしても、夜ご飯だけは準備しないといけなかった。

慧佑に正直に話して、生活費を追加してもらおうか?

脳裏に浮かんだ案を真悠はすぐに消した。そんなことできるわけがなかった。あのケチな夫が財布からお金を出す姿は、思い浮かべることすら難しい。残り1週間の過ごし方を考えているうちに、だんだんと真悠のなかで怒りが湧いてきた。髪がぼさぼさになるのもいとわずにかき乱す。

「あぁ、もう、なんでこんなことになったのよ……!」

真悠と慧佑が結婚したのは5年前。真悠が28歳、慧佑が32歳のときだった。慧佑は商社に勤めていて、給料もかなり良かった。さらに真面目な性分からか、お金がかかる趣味もなくとても堅実な生活を送っていた。

慧佑となら安心した生活を送ることができると思い、真悠はプロポーズを受け入れた。慧佑は思った通り、将来に向けての資産形成を丁寧に計画していたし、貯金だって申し分なかった。けれど、順風満帆に見えた結婚生活に最初のケチがついたのは、真悠が仕事を辞めたときだった。

真悠の母が専業主婦だったこともあってか、昔から夢はお嫁さんだった。友達に話すと目を丸くされることも少なくないけれど、家で夫の帰りを待つ主婦というのが、真悠の妻としての理想像だった。

結婚する前から寿退社をすると伝えていたこともあって、真悠は結婚した翌月に仕事を辞めた。しかし慧祐は本気だと思っていなかったらしく、「信じられない」と猛反対にあった。とはいえ、辞めてしまった以上時間を巻き戻すことはできない。しぶしぶ諦めたかに見えた慧祐だったけど、そこから度の過ぎた倹約生活がスタートしてしまったというわけだった。

毎月、渡される生活費は3万円。家賃だけは慧祐の口座から直接引き落とされているものの、生活費の3万円から食費や光熱費、医療費などを払わないといけない。毎月をしのぐのがやっとで、真悠が自由に使えるお金なんてほとんど残らなかった。

現在、慧佑の年収は800万ほどあり、同じような収入のある夫婦ならかなり良い生活ができるはずだ。それなのに慧佑はそれを許さない。極限まで出費を減らし、余ったお金は全て貯金と投資に回している。もちろん、真悠自身、慧佑の真面目で堅実な部分を好きになったのだけど、ここまで生活が苦しいのは完全に予想外だった。

こんな結婚生活を望んだわけじゃないのにと、わずかな所持金を見た真悠はもう一度髪をかき乱した。