小室さんが指摘した高層階症候群とペアローンの問題点

さらに小室さんは「鵜呑みにする必要はありませんが、こういう研究があることも知っておいた方がいいでしょう」と、タワマンで育った子供が健康不良や近視になりやすい、自宅にこもりがちで発達障害を起こしやすい、成績不良に陥りやすいといった、いわゆる“高層階症候群”について分かりやすく解説した記事のコピーも渡してくれました。

私と小室さんのやり取りを聞いていた夫が「確かに、僕らのマンション選びには“子供目線”が欠如していたかもしれません」と白旗を上げるに至り、夫の隣に座るうちの母はますますにんまりです。

「小室先生、この住宅ローンについてはどう思います?」

意気揚々とした母の問いかけに、小室さんは資金計画書を開いて次のような説明を始めました。

住宅ローン金利は当面上昇していく可能性が大きく、今の金利水準だと借入額は年収比で7倍以内には抑えたい。私たちの合計1億8000万円近い借り入れは、明らかにオーバーローン状態のように思える。金額が大きいだけに、今後も現状かそれ以上の収入を得ていくことを前提としたローンはリスクが高い。

確かに、くだんのタワマンを購入した場合、管理費や修繕積立金を含めると毎月の住居費は今の1.5倍近くに膨れ上がります。これから子育て費用もかかりますから、私たちのどちらか一方が病気になったり、失業したりしたら大変です。

小室さんはペアローンの問題点についても分かりやすい形で指摘してくれました。

「渡部さんのような高収入カップルの場合、うまく活用すればより高額のローンを組めるのがペアローンの大きなメリットです。一方で、ローンにかかる諸経費は1人で組む時の倍になりますし、どちらかに不測の事態が生じた場合、もう片方の負担が大きくなってしまいます。何より一番のリスクは、ご夫婦が離婚した場合です。片方にだけ返済義務が残ってしまい、物件を手放そうとしてもローン残高が販売価格を大きく上回って売るに売れない可能性があります」

思わず夫と顔を見合わせました。不動産会社の担当者からはそんな話は一切聞かされていませんでした。プロの助言とはこういうものなのだなと妙に納得した次第です。

助言を受けてタワマン購入は再考することに

「大変参考になるお話をありがとうございました。購入は再考します。子供が生まれて新しい家を買おうとなったら、必ずまた相談に来ます」

夫が丁寧にお礼を言うと、小室さんはこんな言葉をかけてくれました。

「不動産業界では、家との出合いを『一期一会』というんですよ。実際、1つとして同じ不動産はないわけですしね。こうしてご縁ができたわけですから、ぜひ渡部さんの一期一会のお手伝いをさせてください」

一期一会、いい響きの言葉だなと思いました。

結果として双方の親の思惑通りになったのはしゃくですが、私たちにとっては小室さんとの出会い自体が一期一会であり、これからの人生でこのご縁を大切にしていきたいと思います。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。