緊急搬送された母
その日の勤務中、真子の携帯に1本の電話がかかってきた。真子がデスクを離れて電話に出ると、相手は隣県にある病院の受付を名乗った。
「園田真子さまですね? 実は、お母さまの園田善子さまが……」
電話口での説明に、真子は思わず息を飲んだ。善子は、熱中症にかかりもうろうとしていたところ、近所で倒れた拍子に道端の階段から転げ落ち、緊急搬送されたのだという。上司に簡単に事情を話した真子は、病院へと急いだ。心臓の鼓動がどんどん速くなり、呼吸も浅くなった。頭の中では何が起こったのかを整理しようとするが、恐怖と不安が先に立ち、うまく考えがまとまらない。
車を走らせて病院に到着すると、真子を待ち受けていたのは、驚くほどやつれた善子の姿だった。
「ああ、真子。悪いね、心配かけて」
「ううん……」
言葉がでなかった。かつては誰よりも元気で、どんな困難にも負けない母だったが、今ではその面影すら感じられないほど疲れ切った表情でベッドに横たわっていた。しばらく会わない間に、母は実年齢より何歳も余分に年をとったようだった。一体、母に何があったのだろうか。疑問は浮かんだが、浮かんだだけでそれ以上思考は続かなかった。
力のない笑みを向ける母に、真子はうまく笑い返すことができなかった。
●しばらく会わないうちに変わり果てた母親。一体何が……? 後編【「お母さん、何があったの?」荒れ果てた実家で母が極貧生活を送っていた「切なすぎる理由」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。