女手ひとつで育ててくれた
真子は飲みかけのコーヒーを持ってソファに腰を下ろし、深い息をついた。りんが学校に出掛けてから自分が出勤するまで、つかの間のコーヒータイム。これが真子の日課であり、唯一の休息の時間でもあった。
(お母さんにも、こんな時間があったのかな……)
真子はふと、自分の母親のことを考えた。母の善子は、若い頃に離婚し、シングルマザーとして真子を育ててくれた。母は昼も夜も働いていて、真子は母が休んでいるところを見たことがなかった。同じひとり親になった今、改めて善子のすごさを実感することが多い。
善子は真子が成人して経済的に自立してから再婚したのだが、その夫も数年前に他界。それ以来ずっと隣県で一人暮らしをしている。最近はあまり連絡を取り合っていなかったが、母なら1人でも大丈夫だろうと真子は思っていた。
善子はどんなときも元気で明るく、真子にとって頼もしい存在だ。夫がよそに女を作って出て行っても、一切弱音や愚痴を吐かず、女手ひとつで真子を育て上げた善子のことだ。きっと一人でも、たくましく生活していることだろう。
自分も母のように、娘に誇れる強い女性にならなくては。
真子は自分を鼓舞すると、いつも以上に気合を入れて仕事に向かった。