振替加算分は諦めて年金分割を進めることに

情報通知書によると、老齢厚生年金は確かに分割で36万円ほど増えることになりますが、振替加算11万円がなくなった分、年金額の総合計としては25万円までしか増えていないことになったのです。

「総合計で見ると思ったほど増えないことになるのね。もう離婚してしまったもの、振替加算分は諦めるしかないか」と、後日、今度は離婚した啓悟さんとともに年金事務所で合意分割のための標準報酬改定請求を進めました(※)。

※元夫と元妻で合意分割の合意が整わない場合は、家庭裁判所の審判等により50%を上限とした按分割合を定めることができます

元夫が他界。離婚しなかった方がよかったのか?

こうして、千里さんも啓悟さんも、分割後の年金を受給するようになりました。ところが、標準報酬改定請求のために年金事務所に行ってからしばらくして、なんと啓悟さんが亡くなったことを長女から知らされました。

もし、離婚していなければ、振替加算の加算が続いていただけでなく、死亡当時の配偶者であることから遺族厚生年金も支給されていました。実際は啓悟さんの死亡時は離婚していたため、遺族厚生年金は当然ありません。千里さんは結果的に1人で過ごすことになりましたが、離婚と年金分割をしていた場合とそもそも離婚していなかった場合とで、啓悟さん死亡後の千里さんの年金額に大きな差が生じることになりました。

長男は「こういう結果になるんだったら、やっぱり離婚しなかった方がよかったんじゃない?」と千里さんに言います。これに対して千里さんは「そんなことない! 離婚したことは間違っていなかった。無理なものは無理だったもの」と自分に言い聞かせるように答え、離婚しなかった場合のことは考えないようにして、1人での生活を続けることになりました。

離婚時の年金分割は「元夫の50%の年金がもらえる」と言われることもありますが、実際は思ったより年金が増えないこともあります。離婚を考えている場合は年金分割制度についてよく確認することが大切です。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。