<前編のあらすじ>

千里さん(仮名・78歳)は、結婚前に7年間会社に勤め、結婚後は専業主婦として家事と育児に専念していました。夫の啓悟さん(仮名・78歳)は、結婚して5年たった頃に個人事業主となり、50歳前には法人化もしました。

その後、啓悟さんは体力の問題もあり75歳で仕事を引退します。しかし、啓悟さんは喪失感を抱え、家で暇を持て余す日々を過ごし、千里さんともささいなことで衝突することが増えました。関係性の悪化によりついに千里さんは離婚を決意します。

離婚後、千里さんは年金分割制度のことを知ります。年金分割とは、結婚期間中の厚生年金加入記録を分割する制度です。「それなりに増えるかも」と期待しながら年金事務所で話を聞いてみると、年金分割をすると老齢厚生年金が増える一方、老齢基礎年金が減ることが発覚したのでした。

●前編:【耐えられない…仕事を引退した夫と熟年離婚へ。年金分割を期待した70代主婦が呆然とした「想定外の事実」】

年間11万円の振替加算がなくなってしまう

年金分割をするとどうなるか気になっていた千里さんは、年金事務所で情報提供請求をします。その際、分割されると老齢厚生年金が増える一方、老齢基礎年金が減ると説明を受けました。具体的には「老齢基礎年金に上乗せされていた振替加算がなくなります」と案内されました。

振替加算は自身の厚生年金加入期間が20年未満で1926年4月2日から1966年4月1日までに生まれた人を対象とし、厚生年金加入期間が20年以上の配偶者に生計を維持されていた場合に加算されます。自身に厚生年金被保険者期間が20年以上あれば加算はされなくなっています。

千里さんは自身では厚生年金に加入していた期間は結婚前の7年間だけで、啓悟さんは65歳時点でも既に20年以上あったため、千里さんには65歳から振替加算が加算されていました。生年月日によって加算額が異なる振替加算ですが、千里さんの場合はこれまで年間11万円が加算されていました。

しかし、年金分割を行った場合、結婚から離婚までの期間で千里さん自身に厚生年金の期間がなくても、啓悟さんが厚生年金に加入している期間は「みなし被保険者期間」となります。そして、振替加算はみなし被保険者期間を含めて厚生年金被保険者期間が20年未満であることが条件となります。

結婚期間中の啓悟さんの厚生年金加入期間は結婚直後の5年(28歳から33歳)と法人化後の約20年(50歳から70歳まで)あります。千里さん自身の厚生年金加入期間(7年)に25年のみなし被保険者期間を足すと合計32年、つまり20年以上になります。

その結果、分割後は年間11万円の振替加算はつかなくなるということです。