義母が作る自家製みそ
買い物の後は約束通り、雑草取りに出掛けた。しかし除草剤の効果もありノビエの姿はなく、単に田んぼを見回るだけで終わった。
改めて眺めていると、いつもはびっしりと稲穂で埋まるはずの田んぼには隙間が目立っているのがよく分かる。このまま何もできずに収穫の日を迎えないといけないのだろうか。吹いた風に揺れる枯れた稲穂のざわめきは、昌子たちを笑っているように聞こえた。
家に戻ると、香ばしい香りがした。台所をのぞき込むと、初江が仕込んでいたみそを保存容器に詰め替えていた。
「できたんですね」
荻原家のみそは初江の自家製と決まっている。何でも市販のみそよりもこちらのほうが米に合うのだという。初江のいう通り、自家製のみそはなかなかにおいしい。
「味見してみなさい」
初江がみそをすくったスプーンを差し出してくる。昌子は受け取って、なめてみる。大豆の濃厚な風味と優しい塩気が抜群だった。これは米の甘みを豊かに引き立てるだろう。みそ汁にしてもいいし、ねぎみそおにぎりにして農作業の休憩に食べるのもいい。昌子の脳裏にはいくつものレシピが浮かんだ。
「いつもいつも、すごくおいしいです」
「今回は、ほんのちょっと甘くしてみたんだ」
「たしかに、言われてみればそんな気もします」
昌子はバケツのような容器のなかに入っているみそをのぞき込んだ。その瞬間、ある考えがどこからともなく降りてきた。
「……お義母(かあ)さん、私、思いつきました。不作を乗り切る方法」
●昌子が思いついた「不作を乗り切る方法」とは? 後編【「ご先祖さまに顔向けできない」米の不作でジリ貧に…コメ農家の嫁が意地悪な姑をうならせた「逆転の発想」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。