母の願いを尊重した

「……そうか。お義母(かあ)さん、そんなことを考えてたんだ」

「お義母(かあ)さん、言ってたもん。私のせいで、利喜さんにいろいろと迷惑をかけて申し訳ないって」

礼子の言葉を伝えると、利喜はそんなことないと首を横に振る。

「家族なんですから、当然ですよ」

利喜は天国で聞いてるであろう礼子に返事をする。

「それで、納骨はどうするの?」

「散骨にする。母さんが私たちを思って言ってくれたことだったし、尊重したいの」

有紀がそう話すと、利喜は満足そうにうなずいた。

お彼岸になったら

こうして、有紀たちは礼子の遺骨を海にまくことに決めた。

専門の業者に依頼し、しっかりとした手続きを踏んだ上で、船に乗って、散骨が認められている岸から5キロほど離れた沖で、礼子の遺骨をまいた。

粉状の骨はすぐに海の中に消えていき、すぐに見えなくなった。

その様子を見守っていると、利喜が肩を回してきた。

「毎年、お彼岸になったら、この海に手を合わせに来ないとな」

利喜の提案に有紀はうなずく。いつまでも見守っていてくださいと願いを込めて、有紀は母が眠る海に向けて、静かに両手を合わせた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。