<前編のあらすじ>

有紀(61歳)の母・礼子(87歳)が突然「墓なんて必要ない、私の骨は海へまいてくれ」と言い出した。これまで母が海を好きだと聞いたことはなかった。

女手一つで自分を育ててくれた母を大切に思っている有紀は釈然としない。今現在の介護を含めて、ずっと母を大切にしていきたいと考えていた。

生前から亡くなったときの話をしなくてはいけないのが嫌だったものの、有紀は霊園の画像を見せたり、なんとか母に説得を試みる。しかし母は支離滅裂な理由をつけては断るばかりだった。そんな折、母が眠るように亡くなってしまった。

●前編:「私の骨は海にまいて」墓に入りたくないと言い続ける母…大げんかの末に60代の娘が「たどり着いた決断」

どちらを優先するべきか

通夜と葬式が無事に終わったあと、有紀たちが納骨をどうするかという問題に直面した。葬儀を終え、骨つぼはわが家の仏壇の脇に置いてある。こんなところにいつまでも母の骨つぼを置いておいていいわけがない。しかしどう納骨をすればいいのか、あるいは納骨をしてもいいのかすらも、分からないままだった。

「お義母(かあ)さんの納骨、どうするか決めた?」

利喜に質問されたが、有紀は何も返事をできなかった。

「やっぱり、有紀としては、お墓に入れるっていうのが一番良いと思ってる?」

「……うん。私にとっては唯一の肉親だからさ、何かあったら定期的にお墓に行って、お参りをしたいの。そうすることで、お母さんの存在をより感じられると思うし」

利喜は深くうなずく。

「そうだね。でも、自分の気持ちを優先する気にはなれないんだ?」

有紀は複雑な気持ちになる。

「海への散骨がお母さんの希望だったからね。どうして散骨がいいのかは分からずじまいだったけど、やっぱり無視するわけにはいかないよ……」

有紀は自分の気持ちと礼子の希望、どちらを優先するべきかで悩んでいた。礼子はもういない。だったら、墓に入れても問題ないのではないかと思う一方で、あれだけ強情に墓を嫌がっていた礼子の気持ちが有紀のなかで引っ掛かってもいた。

「とても大事なことだから、時間をかけて、悩んでいいと思うよ。そして自分が納得する方法でやればいい。きっと、お義母(かあ)さんも、有紀が選んだということなら、理解してくれるよ」

「……だと良いんだけどね」

そうは言ったものの、結局、納骨の方法は決まらないし、決める方法も分からなかった。

「そうだ。お義母(かあ)さんが残した私物もどうにかしないとダメだよね?」

有紀はわざとらしく話題を変えた。これ以上話しても答えがすぐには出ないと分かっているから、利喜もそれ以上は深く追求してこなかった。

葬儀が終わっても、有紀にはまだやらないといけないことがある。母が残したものの中で、とっておくものと処分するものを分けなければいけない。

「さっそく明日にでも、実家に帰って仕分け作業を始めようかなって思ってるの」

「1人で大丈夫? ものが多くて大変じゃないか?」

利喜の過保護な発言に、有紀は苦笑する。

「大丈夫よ。最初はこまごましたものから始めるから。無理そうなときには業者に頼むわ」

「……家はどうする?」

「処分するわ。それはずっと前から決めていたことだから。まあ、だとしても、本当にそうなると思うと、寂しい気持ちになるけど」

「無理、しなくてもいいんだよ。家の維持費くらいなら、払えると思うし」

「ううん、そこまでしなくていいのよ。本当に、これは決めたことだから。それじゃ、早速明日、整理に向かうわね」

有紀は利喜に気を遣わせないように、笑顔を作った。