不気味な予感
夕暮れが近づくと、竜也が真新しいキャンプ用品を駆使して火をおこし、美弥子は夕食の支度にとりかかった。
なんとか食い荒らされずに済んだ食料とリュックサックに携帯していた非常食を使った簡単な食事だったが、それでも満腹感を感じられるくらいの食事を取ることができた。持ってきていたアルコール飲料が無事だったことも大きかった。あのキャンパーに言われたことを頭から払拭するように、美弥子たちは大いに初キャンプの夜を楽しんだ。
やがて夜も更け、美弥子は葉擦れの音を子守歌にして竜也の隣で眠りについた。しかし、時折訪れる深々とした静寂は美弥子の脳裏にキャンパーの言葉を思い起こさせた。
健やかに眠る竜也とは裏腹にうまく寝付くことのできなかった美弥子は、すぐ近くで大量の枝をへし折るような物音を聞いた。美弥子は早鐘を打つ心臓を抑えながら、すぐ隣で寝息を立てている竜也に向かって小声でささやいた。
「あなた、あなた……何か聞こえない?」
「……うぅん」
軽く揺すって声をかけても、竜也は低くうめき声を上げただけで起きる気配はなかった。
仕方なく美弥子が1人耳を澄ませていると、ガサゴソと近くで何かを転がしたり、ガリガリと固いもので引っかいたりしているような音が聞こえてきた。
だが、真っ暗なテントの中からでは外で何が起きているのか分からない。
ただ確実に、何かがそこにいる。
そんな不気味な予感が、美弥子の心に忍び寄っていた。
●不審な物音の正体は……? 美弥子の嫌な予感は的中してしまうのか。 後編【「あの時引き返していれば」人間の食料を荒らしたばかりに命を奪われた動物…50代夫婦が「後悔の代わりに行うこと」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。