公正証書は給与からも差し押さえができる

「俺は金がない」。この正平さんの言葉は真実だ。事実、彼の口座にはお金がほとんど入っていない。養育費の回収は到底不可能な状態だ。

通常であれば相手に貯金がない以上、養育費の支払いを受けられないとあきらめるかもしれない。だがしかし、公正証書を用いて差し押さえをすることで相手が勤務先から受け取る給与を差し押さえられる。

養育費は差し押さえ可能な金額も大きく、最大で手取り額の2分の1の金額を上限を対象とすることができる。加えて一度差し押さえができればその後の差し押さえは継続して続く。つまり、今後は養育費の支払い漏れが起こりづらくなる。

晴美さんは今回、当事務所と提携している弁護士と相談の上、勤務先からの給料を差し押さえることにした。

手続きにかかった期間はおよそ2カ月。差し押さえには一定の手続きを踏むことが必要であり時間がかかることも多いのだが、きちんと手続きすれば相当高い確率で養育費の回収が可能になる。

現在の晴美さん親子の状況は…

先日、晴美さんが夏のギフトをもって当事務所へ挨拶にいらした。30分ほど話を聞いてみると、現在は差し押さえの効果もあり毎月滞りなく支払いを受けられているようだ。

晴美さんに話を聞くと公正証書について知ったのは過去に私の執筆した記事がきっかけだったようで「柘植さんの記事に出会って公正証書を作らなければ今頃離婚すらできなかったか、離婚をしても養育費は泣き寝入りでした!」と感謝の言葉をいただいた。

お子さんもすくすく育ち、今はサッカーに熱中しているという。練習にかかる費用も養育費から支払われており、養育費の存在が大きく役立っている。

公正証書といえば一般的な感覚からは程遠く、何を大げさなと思えるだろう。ただ、養育費には支払いが滞ったり、相手と音信不通となり支払いが断絶されたりすることもある。

離婚協議書だけ作ればいいという声もあるが、公正証書と異なり差し押さえ手続きの前に裁判手続きをしなければならないため、差し押さえ時間とお金を要することもある。場合によっては協議書が無効として扱われて空振りに終わるかもしれない。

離婚において養育費を定めるのであれば公正証書を作成すべきだ。そうすることで自身だけでなく子の将来を守ることにもつながるのだから。

幸い晴美さんは公正証書で離婚協議書を作成することで最悪の未来を回避できた。その一方で、一歩間違えれば晴美さんも養育費の支払いが受けられず、愛しいわが子に満足にサッカーをさせられない可能性があったことから、決して目をそらしてはならないだろう。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。