<前編のあらすじ>
紀子(36歳)は、離婚を機に新天地を求めてこの町に引っ越してきた。知り合いの1人もいないこの町を選んだのは、就職先の運送会社に通うためだ。大学を出てすぐに結婚し、専業主婦になった紀子にはほとんど社会人経験がない。息子のため、正社員での雇用を選んで新生活を送っていた。
そんな紀子は夏休み前から息子の拓也(10歳)が学校に行きたがらなくなったことに頭を悩ませていた。周囲には気軽に相談できる相手もおらず困っていたが、夏休みに入ったことでひとまず胸をなでおろす。
そんな矢先、近所のギャルママ・福田明日香(24歳)から夏祭りに誘われる。準備があるからと指定された町内会館に行くと、見た目のいかつい男たちばかり。面食らう紀子だが……。
●前編:離婚による転校、新しい学校になじめない息子…シングルマザーの悩みを一蹴した「意外すぎる人物」
サングラスの男
座敷に座る男たちのあいだを縫って、明日香は紀子たちを奥へと連れていく。大きな笑い声に混ざって、視線が紀子たちに向けられる。拓也は紀子のブラウスの裾を強く握りしめている。
「直樹さん、連れて来たよ~」
明日香の声に反応して、髪を短く刈り上げ、室内なのになぜかサングラスをかけた男がゆっくりと顔を上げる。当然、堅気には見えなかった。
「おお、明日香ちゃん」
あいさつもそこそこに、直樹と呼ばれた男はサングラス越しに拓也を観察している。
「すげえひょろひょろじゃねえか。肌も白いしよ、外で遊んでねーだろ?」
口の端を上げて声をかけられた拓也は萎縮してしまって声が出ない。
「あ、あの、い、いったい何なんですか? 拓也は何をするんですか?」
紀子は思わず、直樹と拓也のあいだに割り込んでいた。失礼かもしれないと思ったが、母親として、このまま黙って見ているわけにはいかなかった。