来年も一緒にやろうね
拓也がちゃんとやれるのか心配で見ていると、明日香が紀子の肩をたたく。
「じゃ、長尾ちゃんはこっち」
「え?」
「みこしを担いで戻ってきた人たちにおにぎりと豚汁を作って振る舞うのが毎年の恒例なんだよね。だから準備手伝って」
明日香は廊下の奥にある調理場に連れて行こうとするが、紀子は抵抗する。
「で、でも」
拓也がどうなるのか、見守っていたかった。
「ほらほら、早く早くぅ~」
しかし強引に明日香に引っ張られ調理場に行かざるを得なかった。それからは蒸し暑い調理場で、必死でおにぎりを作り続けた。
「ねえ、今から皆、みこしが始まるみたいだから、外に行こう」
明日香の提案で、紀子はすぐに手を洗い、会館の外に出る。いつの間にか直樹も法被姿になって、威勢の良い声をあげ、士気を上げている。
拓也はというと、子供たちの輪の中で直樹の様子を興味深そうに見ていた。熱いからか興奮しているからか、顔がとても赤い。法被姿の拓也はあまりにも新鮮で、思わず写真を何枚も撮ってしまった。
間もなく、直樹たちは大きなみこしを担ぎ、拓也たちは子供用の小さなみこしを持ち上げて、出発していった。人数分のおにぎりと豚汁ができたあとは、テントの下にビニールシートを引き、長テーブルを出して、食事ができるようにする。全ての準備が整ったあとは、みこしが帰ってくるまで町内会の人たちと世間話をしていた。
楽しく会話をしていると、少しずつ掛け声が近づいて来るのが聞こえてきた。
とっくにあかね色に染まった空の下で、子供も大人もみこしを下ろす。全員が汗まみれで充実感いっぱいの顔をしていた。拓也も同様にとても疲れた顔をしていたが、周りの男の子と会話をしている。それだけでもこのみこしをやったかいがあったと思った。
「どうだった? みこし?」
家までの道を歩きながら、拓也に尋ねてみるが、答えはわざわざ聞くまでもなく分かっていた。
「キツかったよ。でも、楽しかったかな」
「やって良かった?」
紀子が質問すると、拓也はしっかりとうなずく。
「うん、皆と来年も一緒にやろうねって約束したんだ」
「そう。それは良かったわね」
「俺、この町に引っ越してきてよかったよ」
ともった街灯が拓也を照らす。その姿が一段とたくましく見えて、紀子は目を細めた。