自分がパワハラ上司に
「何度言えば分かるの!? うちはファミレスじゃないのよ! みっともない言葉は使わないで!」
「すいません……」
店の裏のダストボックス横にまで連れてきたアルバイトスタッフの男の子を、美織は容赦なく怒鳴りつけていた。まだ20代そこそこ、娘とそう年の変わらないスタッフはすぐに謝ったが、美織の気は収まらなかった。
「1人でも正しく敬語が使えない店員がいたら、店全体の評価が下がるでしょ。あなたが頑張ってるみんなの足を引っ張ってるの。分かる? ほんっと、どういう育ちしてるんだか。うちはそういうチャラチャラした店とは違うのよ」
腰に手を当てて説教する美織の前で、彼はうつむいている。反省しているのか、指導を理解しているのか、美織には全く見えてこなかった。美織は大きくため息をついて、彼に持ち場へ戻るよう指示をした。
美織は会社員生活が長かったせいか、いい加減な言葉遣いが許せない。特に“ファミレス敬語”“バイト敬語”と呼ばれている間違った敬語は、どうしても見過ごせない。アルバイトスタッフの彼は、会計時に「よろしかったでしょうか」などの“ファミレス敬語”を使ってしまったため、美織にしかられていたというわけだ。
どうしてちゃんとできないのだ。舌打ちを店の裏に吐き捨てて、美織も店に戻った。