突然倒れた父
「ありがとうね。また遊びにおいで」
「うん、今度は一樹も一緒に連れてくる」
翌日、昼食を終えたタイミングで瑠璃は帰り支度を整えた。愛子は見送りにきているが、勇はリビングで経済新聞を読み込んでいて全くこちらの会話に入ってこようとしない。
「じゃあね、お父さん、また来るからね」
「ああ、気をつけて」
扉の隙間からのぞき込むようにして声をかけた瑠璃に、勇はあっさりと返事をした。新聞を閉じたのでこっちに顔を出しに来るのかと思いきや、お茶をくみにキッチンへ向かっただけのようだった。
愛子はサンダルを引っかけて、家の前まで瑠璃たちを送った。瑠璃の運転する車が見えなくなるまで見送って家のなかへと引き上げると、リビングには新聞が広げっぱなしになっているだけで勇の姿がなかった。
「お父さん?」
愛子は首をかしげながら、勇に呼びかける。声は返ってこず、愛子はキッチンをのぞき込む。
「――お父さん!」
キッチンに、うつぶせになって倒れている勇の姿があった。
●突然倒れてしまった夫。容体は……? 後編【58歳で脳梗塞を発症してしまった夫…早期退職の末、抜け殻のようになった夫を救った「妻からの提案」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。