寝ている孫をじっと見つめる
「遅かったね」
「ああ、残業だったからな」
玄関で勇を出迎えた愛子はあきれて首をかしげる。
「こんなときくらい、断ればいいじゃない」
「そんなわけにいくか。こっちは給料もらってるんだぞ」
「だって今日は、愛子と孫が来てくれてるのよ」
「泊まるんだろ? だったら、いつ帰ってこようが関係ないだろ」
不満そうに勇は自分の部屋に戻っていった。部屋着に着替えて、勇は孫と初対面を果たす。
「さっきようやく寝たんだから、絶対に起こさないでよ」
瑠璃にそうくぎを刺されたので言葉こそ発しないが、勇は寝ている亮介の姿をじっと見守っている。愛子と瑠璃はその様子を眺めつつ、笑いを堪えて洗い物をする。
「別に家族をないがしろにするタイプじゃないんだけどね」
「そうね。悪い人じゃないんだけど、なんかこう、真面目というか不器用というかね。もっと肩の力を抜いて仕事すればいいのに」
せっかく孫がウチに来るなんて大切なイベントのときくらいは、せめて残業せずに帰ってきたらいいのにと思わなくもないが、勇が仕事を頑張っているのは家族のためだったり、会社の仲間のためだというのが分かっているから、愛子も何も言わなかった。
「ああやって寝顔を見てるだけで満足なのかしらね? 起きてるときはもっとかわいいのに」
「さあ。でも孫がかわいいのは間違いないんじゃない?」
「うん、それはそうね」
さっきから亮介の前から動こうとしない勇を見ると、愛情は嫌と言うほど伝わってくる。洗い物を終えた瑠璃が亮介を寝室に移動させると、ようやく久しぶりに家族3人の時間ができた。
「一樹くんはどうなんだ? 仕事は順調なのか?」
ビールを口に含み、勇が瑠璃に話しかける。
「うん、もちろんよ。仕事そうだし、家族サービスもしっかりしてくれてるわ」
「誰かさんと違ってね」
愛子の言葉に瑠璃は吹き出す。勇は何のことか分かっていないのか、朴訥とした態度のままかまうことなく話を続ける。
「ま、家庭を支えるっていうのは大変なことだからな。一樹くんには仕事を頑張ってもらわないと」
「一樹さんにあなたの仕事中毒をうつさないでよね」
「中毒? なんだそれは?」
意味を理解してない勇の返しに愛子たちは声を出して笑った。