妻への謝罪
ようやく目が覚めた洋司は、次の週末、息子たちを連れて義実家へと向かった。
そして息子たちを義両親に任せると、勢いよくゆかりに頭を下げる。
「ごめん! 俺が悪かった!」
ゆかりは洋司が素直に謝ってきたことに驚いているようだ。
目を丸くしているゆかりの様子に気付かず、洋司は深々と頭を下げたまま謝罪を続ける。
「ゆかりのこと理解しようとせずに、ひどいこと言ってごめん。家事の大変さも片頭痛のつらさも、今まで俺は知ろうともしなかった……。ちゃんと調べたんだ。片頭痛は脳梗塞のリスクを高めることになるって。“たかが頭痛”なんて言って、本当にすまなかった」
洋司の言葉をゆかりは黙って聞いている。
「これからは心を入れ替えると誓うよ! だから……帰ってきてくれ! ゆかり!」
すがるように洋司が顔を上げると、腕組みをして仁王立ちするゆかりの姿があった。
ゆかりの視線が突き刺さる。詰められて当然だ。どんな厳しい言葉をぶつけられても、すべて受け止めようと思っていた。
しかしゆかりは深く息を吐き、洋司の覚悟を肩透かしするような言葉をそっと並べた。
「……仕方ないから今回は許してあげる」
ゆかりが絞り出すように返事をすると、洋司はその場にへたり込んだ。どうやらホッとして力が抜けてしまったらしい。
その直後、ゆかりの笑いだす。情けない洋司の姿を見て、思わず吹き出してしまったようだった。
「そんなに笑うなよ」
洋司は頭をかきながら苦笑したが、実は胸がいっぱいだった。ゆかりの笑った顔を見るのは、ずいぶん久しぶりのことだったからだ。
この笑顔を守るためなら何だってする。
洋司は決意を新たに義実家を後にしたのだった。