<前編のあらすじ>

子供の頃から片頭痛に悩まされてきたゆかり(38歳)は、今年も梅雨時期の痛みが特にひどく、朝起きることも難しくて仕事を休む日が続いていた。

夫の洋司(42歳)は「いいよな、頭痛で休めて」などと言い放ち、真面目に心配していなかった。

部下のミスなどでストレスを溜め込み、遅くに帰ってきた洋司は散らかった部屋を見て、一日寝込んでいたゆかりに「ただの甘えなんじゃないの?」と苦言をぶつけてしまった……。

●前編:「ただの甘えなんじゃないの?」梅雨時にひどくなる片頭痛…痛みに無理解な夫が口にした「無意識のモラハラ」

出て行った妻

土曜日の朝、テーブルの上に書き置きを見つけた洋司はあぜんとするほかになかった。

『しばらく実家に帰ります』

妻に出て行かれるなんて経験は、もちろん生まれて初めてだ。

ゆかりとは交際期間も含めて10年以上一緒にいるが、ほとんどケンカをしたことがない。そのゆかりが自分に黙って出て行ってしまったのだ。洋司にとっては、いきなりガツンと頭を殴られたような衝撃だった。

ゆかりが実家に帰ったのは、間違いなく昨晩の出来事が原因だろう。仕事のことでイライラしていた洋司は、1日中寝ていて家事をしていなかったゆかりを責めるようなことを言ってしまったのだ。

そのせいでゆかりを傷つけてしまったのかもしれないとは思ったが、洋司に謝るつもりはなかった。なぜなら自分は間違っていない。大の大人が頭痛ごときで会社や家事を休んでいる方がおかしいのだ。

どうせすぐに帰ってくるだろうと高をくくっていた洋司は、車を走らせれば30分程度で到着するゆかりのことはなんの対処もしないまま息子たちとの日常生活を送るのだった。

ところが、3日たっても1週間たってもゆかりが家に帰ってくる気配はなかった。息子たちも母親に会いたいと駄々をこねることが多くなり、ようやく真剣に悩み始めた洋司は、思い切って会社の同僚に相談してみることにした。

10年来の付き合いになる同僚は、何となく洋司の様子がおかしいことに気付いていたらしい。

「実は……少し前に妻が実家に帰ってしまってね」

洋司が遠慮がちにゆかりのことを切り出すと、彼は快く話を聞いてくれた。

きっと洋司自身、誰かに悩みを打ち明けたい気持ちがあったのだろう。気が付けば、ゆかりの片頭痛のことや彼女が家を出て行く前日の出来事を事細かに説明していた。

洋司の話を聞き終わった同僚は、あっさりこう答えたのだ。

「それは、どう考えても百瀬くんが悪いね」

「えっ? 俺が悪いのか……?」

てっきり悩みを共感してもらえるものと思い込んでいた洋司は、同僚の言葉に面食らった。困惑顔の洋司を気に留めず、さらに同僚は続ける。

「痛みのことは本人にしか分からないよ。特に女性のことは俺たちには理解できないことも多いしな。それなのに大したことないって決めつけるのは良くないぞ」

それから同僚は、こんな話をしてくれた。

なんでも彼の妻は、ひどい生理痛持ちで毎月立ち上がれないほど苦しんでいるという。

最初のうちは同僚も深刻には考えていなかったが、あまりにも妻がつらそうだったので、生理痛について詳しく自分で調べてみることにした。すると、重すぎる生理痛には病気が隠れている場合があることや、中には救急車を呼ぶほどの激痛を経験する人がいることが分かった。

それ以来同僚は、生理中の妻を献身的にサポートしようと決めた。現在、同僚の妻は定期的に病院を受診することで症状が改善しているという。

「はあ……俺とは大違いだな」

「いやいや、百瀬くんだってできるよ。とにかく奥さんを知ることが仲直りの第1歩だぞ。ほらほら頑張りたまえ」

同僚は気落ちする洋司の肩にポンと手を置いて、わざと明るく振る舞うよう冗談っぽく笑った。