<前編のあらすじ>

田中さん(72歳・女性)はテレビで通販番組を見て「こんな商品があるのか」と漠然と眺めるのが趣味だった。見るだけで満足していたため実際に購入するようなことはなく、お金がかからない1つの趣味として楽しんでいた。

しかし、コロナ禍をきっかけにインターネット通販にのめり込むようになった田中さん。安いから、セールしていてお得だから……。何かと理由をつけてどんどん商品を購入してしまう。月の支払額が10万円を超えることも珍しくなく、気づけば自宅は段ボールが山積みに。

そんな田中さんの状況に気付いたのは、たまたま訪れた息子の剛さん(40歳・男性)だった。積みあがった段ボールや真新しい家電を見て、全てを察したようだ。「母さん、この段ボールは何?」。剛さんは怒りを抑えて、田中さんに問いかける。

●前編:【「全身に電流が走ったかと…」ネット通販にどハマりして“理性崩壊”した高齢女性の悲しい末路】

インターネット通販はまさかの「クーリングオフ対象外」

問い詰められた田中さんは、最初こそ隠そうとしたが、剛さんの圧に負けて全てを語り始める。外出できない中、時間つぶしでインターネット通販サイトで買い物をしたこと。そこから買い物がくせになってしまい徐々に頻度や金額が増えていったことを告白した。

それを聞いて剛さんは「クーリングオフ」を田中さんへ勧め、筆者の行政書士事務所へ2人で訪れた。クーリングオフとは、一定の期間内であれば無条件で解約ができる。一方的な都合で商品を返品し、返金を受けられる制度というわけだ。

だが、クーリングオフは万能のカードではない。一定の制限が存在しておりその範囲内ではクーリングオフができない。私は相談に訪れた田中さんと剛さんにクーリングオフについて伝える。

「申し訳ございませんがインターネット通販においてクーリングオフは適用されません」

私は断腸の思いでそう伝える。

そもそもだが、一度成立した契約は当事者の同意なく覆せないのが原則である。買い物という契約において無条件に好き勝手にクーリングオフを認めてしまえば法治国家である日本の社会の在り方が揺らぐ。

そういった背景も踏まえクーリングオフには適用される範囲が厳格に定められている。一例としては、クーリングオフが適用されるのは訪問販売や電話勧誘販売、業務提供誘引販売取引(内職商法やモニター商法等)など特定の範囲に属する契約が挙げられる。

つまりは、突発的な出来事から契約につながった場合に限られる。それらに当てはまらないインターネット通販サイトでの買い物は対象外なのだ。