火葬場でかみしめた現実
「晴美、最後まで気丈でしたね。本当は、苦しいはずだったのに……」
火葬場で晴美を見送ったとき、晴美の友人である尚子が話しかけてきた。尚子の喪服のワンピースには、犬の毛がついている。最後の別れくらい、身だしなみを整えてくればいいのにと一郎は不満に思った。
「……そうですね」
「でも、晴美らしい最後でしたね。明るくて、優しくて……」
「……そうですね」
晴美とは仲が良かったのかもしれないが、一郎は軽くあいさつをしたことがある程度で、こうして中身のある話をちゃんと話すのは初めてだった。
「そういえば晴美がね、ずっと一郎さんのことを心配していたのよ」
「ですよね……」
とはいえ、一郎は何を話して良いのか分からなかった。尚子の言ってることは重々承知している。乱暴な言い方をすれば、言われるまでもない。尚子の甲高い声は、お前が心労をかけたせいで晴美が死んだのだと、一郎をとがめているような気がした。
1人になりたくて、その場を外して屋外へ出た。
吹いてくる風が冷たくて、一郎は自分がたった1人になった事実をかみしめる。
「そうか、もう晴美はいないのか……」
煙突から上がる煙は、のしかかるような曇天に吸い込まれていった。