小林さんが最終的にとった行動は…
その後小林さんはどうなったのだろうか。私が小林さんのその後を知ったのは内容証明郵便を送ってから1年程たってからだ。どうやら小林さんはなけなしの貯金を使って引っ越しをしたらしい。
何も契約の解除や立ち退き要求によって追い出されたわけではない。家賃値上げの拒否自体は更新の拒絶理由や解約理由にならないからだ。このように、居住用住宅では借り手側が強力に借地借家法によって保護されている。
では、なぜ小林さんは引っ越すことになったのだろうか。理由は管理会社との関係悪化だ。
家賃の値上げを拒否して以降管理会社の対応が明らかに悪くなったという。小林さんの住む物件はやや築年数が経過しており、ちょうど各設備に不備が出始めてくるタイミングだった。
以前であれば設備が故障したことによるトラブルはすぐに対応されたのだが、あれ以降対応が悪くなり、すぐには対応されなかったようだ。真冬に給湯設備が故障した際、数日対応を放置され「もうだめだ」と思ったようでそこで引っ越しを決意したとのことだ。
家賃値上げは拒否できるが、歩み寄りも大切
家賃の値上げは拒否できる。借地借家法によって借り手側は手厚く保護されているからだ。しかし、法によって保護されているからとその権利にあぐらをかいていると後々自らの首が絞まっていくことにもなりかねない。
住宅の賃貸借契約は貸し手と借り手との合意で成立する契約だ。家賃の値上げは拒否できる。だが、より長く平穏に住み続けるには相互の歩み寄りが必要だ。
小林さんのように不便を被ったあげく最終的に引っ越し――なんてことにはならないように、家賃の値上げを拒否するのであれば一方的に突っぱねるのではなく、こちらも歩み寄り、周辺の家賃相場やその他事情を鑑み、状況次第では一定額までの値上げは許容するなどの対応が必要だろう。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。