妹ゆずりの勝手な振る舞い
暗たんとした気持ちでリビングに戻ると、夏織は勝手に押しかけてきて今更気まずさを感じているのか、うつむいていた。
黙っていては余計に気がめいるので、何か話題を探す。百合子の目に、夏織のボストンバッグにつけられたアクリルのキーホルダーが目にとまる。
「そのキーホルダーの男は誰なの? アイドル?」
夏織はうなずく。
「ショウタ。バニーズのメンバー」
バニーズという名前に聞き覚えがあった。家の余白を埋めるために流し続けていたテレビにも意味があったというわけだ。
「なんか最近よくテレビ出てるやつか」
「うん、アイドル。ほら、オーディション番組で選ばれたの。見たことあるでしょ?」
「へぇ」
もちろん見たことはない。百合子はあいまいにうなずいた。
「ライブ見る? DVDもね、持ってきたんだよ」
夏織はそう言ってボストンバッグからDVDボックスを取り出し、プレーヤーにセットする。
勝手な振る舞いは有希譲りだろう。大げんかをしていても、2人は親子というわけだ。しかしそれ以上に、家から持ってきたバッグの中身がほとんどアイドルのグッズばかりだったことにあきれていた。
家出を単なるお泊まりと勘違いしているのではないか。
百合子が突っ込みそうになったとき、ライブ映像がスタートする。7人の男の子たちがステージ上に飛び出して、キレのあるダンスと歌を披露する。素人目に見ても、彼らのパフォーマンスが積み上げられた練習の上に成り立っているものだと理解できる。夏織は肩を揺らしながら、曲を口ずさみつつ画面に見入っていた。とはいえ百合子は知らない曲ばかりなので、画面を流し見るようにボーッと眺めていた。