家族を送り出したはるかの行く先

1人になっても落ち着いてコーヒーを楽しむ余裕などない。汚れた食器を食洗器で洗い、その間に乾いた洗濯物を畳んで夫のワイシャツや息子の制服のシャツにアイロンがけをする。

そして、最後が家中の掃除だ。大枚をはたいて購入したマンションなのだから時間がないからと手抜きはできない。テーブルや窓をきれいに拭き上げ、全部の部屋に掃除機をかける。

ここまで終えて、ようやく出掛ける支度ができる。

月曜日から金曜日の9時30分から16時30分まで、隣区の大きなショッピングセンターのスーパーで品出しのパートをしている。夫の給料だけではとてもマンションの住宅ローンを返していけない。

自転車通勤で30分近くかかるが、自宅から離れたスーパーにしたのは、このマンションの住民に会うのを避けたかったからだ。パート割で値下げ品がさらに安く買えるのもありがたい。このマンションの食料品店は高過ぎて、とても買い物をする気になれない。

 

この日は親戚の子供に入学祝いを現金書留で送る必要があり、早めに家を出てマンション内の郵便局に立ち寄った。順番待ちの整理券を取ってソファに腰掛けようとすると、隣に地権者の増岡さんの奥さんが座っていた。