<前編のあらすじ>
70代の松井さんには40代になる2人の子どもがいた。兄妹の良好な関係を相続の場で壊さないためにも、手書きで作成する遺言書である「自筆証書遺言」を作成することになった。しかし、松井さんの“ある勘違い”が後に兄妹間の相続争いの火種となってしまう。
●前編:【「わが子のために」と起こした行動が裏目に…相続争いの禍根となった70代男性の遺言書】
すべてをパソコンで作成してしまった松井さん
繰り返しになるが自筆証書遺言は全体を手書きで作成しなければならない。本文をOAソフトで作成して印刷したものは自筆証書遺言としては無効となる。
しかし、松井さんは自筆証書遺言のすべてをOAソフトで作成してしまったのだ。間の悪いことに当事務所がそれを指摘した後、新たな遺言書を作成される前に松井さんは亡くなられてしまった。
「パソコンで作っていいのは財産目録だけだったのを忘れていました。早めに書き直します!」
確認した際にそう元気よく返事をした松井さんだったが、そこから数週間後に亡くなられてしまった。諸々の事故が重なり、突然の死だった。
そうなると荒れに荒れるのが相続だ。遺言書通りなら6:4の分け方になるため信人さんの方が取り分は多くなる。一方で裕美さんは少なくなる。財産の総額はおよそ3000万円。遺言書通りで相続するなら信人さん1800万円、裕美さん1200万円で相続することになる。
しかし、法定相続分に従えば5:5の割合となるため1500万円ずつになる。この300万円の違いは非常に大きい。
「親の意思を尊重して遺言書の内容通り遺産分割するべきだ」
そう主張するのは兄の信人さん。
「有効な遺言書がない以上平等に分けるべきだ」
そう主張する妹の裕美さん。両者の言い分は平行線だ。