足の踏み場もないひどい状態の部屋

部屋に入ると、それはもうひどい状態でした。リビングは食べ終えたカップ麺の容器や菓子パンやスナック菓子の空き袋などのゴミで足の踏み場もありません。生ゴミもそのまま放置されていて、得体の知れない液体がフローリングに濃いシミをつくっていました。

家具や電化製品、洋服などもほぼそのまま。石井さんや不動産会社の担当者が何とか竹中さんと連絡を取ろうとしましたが、登録した携帯電話の番号は既に使えなくなっていました。

家財道具の処分費用に加え、汚部屋のハウスクリーニング、壊された壁やサッシの修理代など、竹中さんに貸していた部屋の原状回復には何十万円もかかりました。他に弁護士費用も数万円支払っています。ほぼ1年分に近い利益がパアになった格好です。

事後報告で分かった竹中さんの生い立ち

竹中さんは完全に行方をくらましました。あの後、おわびと事後報告に訪れた石井さんから、竹中さんが精神障害をかたって障がい者手帳を詐取していたこと、一人っ子で両親は既に亡く地元でトラブルばかり起こして親戚からは絶縁されていたことを教えてくれました。教師をしていたのも何十年も前の話で、それ以降は完全に無職だったようです。

お金の問題もありますが、この1件で疲弊し切った私たち夫婦はアパート経営から手を引くことを決めました。幸い、築古物件に特化したサラリーマン大家さんが借主の継続入居を前提にアパートごと買い取ってくれることになりました。仲介してくれた不動産会社によると、この業界では名前の知られた大家さんのようでした。

新オーナーと引き継ぎを兼ねた酒席を設けた際、今回のトラブルの話題になりました。「そういう話は同業者からもよく聞きますよ。むしろその人だけで済んだのだとしたら、斉藤さんのアパート経営はそこそこ順調だったと言えるんじゃないですか」。慰めの言葉はありがたく頂戴しましたが、私が不動産経営をすることは金輪際ないと思います。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。