竹中さんの次なるターゲットになったのは……

次なるターゲットになったのは、竹中さんの隣室に住む河野君でした。近くの工科大学に通う河野君は色白でおとなしい好青年で、一人でゲームをしているのが好きなシャイな性格でした。

きっかけは2人がアパートの階段ですれ違ったことでした。竹中さんは「おはよう!」とあいさつをしたらしいのですが、実習に遅れそうだった河野君はろくに返事をせず、先を急いだようです。河野君の態度に腹を立てた竹中さんが河野君を追いかけ、「お前、俺をバカにしているだろう」と殴りかかったのです。

それから、河野君に対する竹中さんの嫌がらせが始まりました。河野君が部屋にいるのが分かると、大音量で音楽を流したり、部屋の壁を蹴ったりします。それだけではありません。河野君の郵便受けの中にネズミの死骸が入っていたり、朝出掛けようとすると部屋の前にゴミや汚物がまき散らされていたりしました。

河野君は竹中さんが怖くて外出がままならなくなり、ついには大学を休学することになりました。残念だったのは、竹中さんの報復を恐れてか、それまで私たちや不動産会社に何も相談してくれなかったことです。

河野君の親御さんから事情を聞いた私は、このまま竹中さんをアパートに住ませておくわけにはいかないと思いました。ケースワーカーの石井さんが何度か竹中さんと話し合おうとしましたが、在宅していても居留守を使って出てきません。業を煮やした私は、弁護士事務所に依頼して竹中さんに契約違反による退去勧告の内容証明郵便を送りつけました。

「明け渡し請求訴訟も辞さない」という脅し文句が聞いたのか、数日後、石井さん宛てに竹中さんから電話が入りました。話し合いを求める石井さんに、竹中さんは「もう退去しました。残っている荷物は適当に処分してください」と言い捨てたそうです。