相続した実家が、いつの間にか家族のお荷物になっていた。そのことに気付いたのは2年と少し前、久しぶりに単身赴任先の札幌から自宅に戻った時でした。
子供たちはすっかり実家に寄り付かなくなり、1人でメンテナンスを担ってきた妻には匙を投げられる始末です。
加えて、敷地面積が100坪と広いこともあり、毎年何十万円もの固定資産税が、子供2人の教育費がピークに達した我が家の家計に重くのしかかっていたのです。
般若のような顔で実家の売却を迫る妻に気圧され、「分かった」と答えるしかありませんでした。しかし、売却もそう簡単ではなかったのです――。
●兄弟で遺産分割。あまりに楽観的すぎた兄の判断とは……
※前編【「あまりに楽観的すぎた」遺産分割で兄弟の命運を分けた“ある決断”】からの続き
ようやく売却できると思った矢先の出来事
大手不動産会社に相談し、ウェブサイトなどにも物件情報を掲載したところ、3カ月後にようやく声がかかったのは建て売り住宅メーカーでした。土地を5つの区画に分割し、いわゆるペンシルハウスを建てる計画と聞きました。
不動産会社の担当者からも、「ご実家の場合、個人で購入できる資力のある方は限られますから、いいお話だと思いますよ」と言われました。
建て売り住宅メーカーの担当者と話をし、売却価格でも折り合い、いよいよ契約となった時、思わぬ横やりが入りました。建設計画を見た近隣住民から「建物の距離が近過ぎる」「日が当たらなくなる」といったクレームが寄せられたのです。
担当者は最初「大丈夫、よくあることです。私が説得しますから」と自信を見せていましたが、1カ月後には「大変申し訳ありませんが、今回のお話はなかったことにしていただけないでしょうか」と青い顔で頭を下げてきました。
そのすっかり憔悴しきった様子を見て、「もしかして」と思いあたるフシがありました。実家の近くには周辺一帯の土地を広く所有する地主一家が住んでいます。不動産関係の会社を経営していて、不動産業界や政界にも顔が利く地元の大物でした。
確か現当主は地元の私立校で弟の同級生だったはず、と思い弟に口利きを頼めないか連絡したところ、「兄貴には悪いけど、あいつだけは無理!」というすげない答えが返ってきました。その時ふと、弟はこうなることを予測して「実家は兄貴に任せるよ」と言ったのではないかと疑念が頭をもたげました。