お金をただ“救出”するだけでは意味がない

ここまでデメリットが多いと、さすがになんとかしたくなりますよね。では、例えばiDeCoに資産移換をしたらどうなるのでしょうか?

実は、掛け金(拠出額)を設定せずに資産を移換しただけであれば、特にメリットはありません。掛金を拠出しなければ、「運用指図者」となります。これは、文字通り「運用のみする人」という意味です。iDeCoも月々のランニングコストがかかり、運用指図者であっても毎月最低でも66円、高いところだと数百円、資産から差し引かれるのです。

ここで投資信託などを選べば運用利回りも期待できるかもしれませんが、定期預金などを選んでしまうと、今のご時世では利息は期待できないためコスト負けしてしまう可能性があります。つまり、せっかくDC難民から脱却しても、運用指図者であれば、あまりメリットはないのです。

iDeCoの本来の目的は老後のための資産形成ですから、やはり毎月の掛金を拠出してこそ意味があります。iDeCoの掛金は全額所得控除、つまり自分の貯蓄に回したお金が経費としてみなされ、その分所得税、住民税を低く抑えることができます。年収500万円くらいの方だと、所得税と住民税を合わせて掛金合計額の20%も税金が安くなります。

もちろん運用で得られた利益に対して税金はかかりませんし、前述したとおり掛金拠出期間は受取時も税制上有利に働きます。やはりiDeCoは本来の目的、老後の資産形成として活用してこそ価値があります。

ここでまたよく言われるのが、「今は事情があって掛金の拠出が難しい」という言葉です。拠出ができない場合、運用指図者となる選択肢もあるのですが、筆者は「iDeCoの最低掛金は月5000円です。これって、一日当たり167円ですが、やはり掛金を出すのは難しいですか?」と伺う事にしています。先ほどの例のように、年収500万円くらいの方なら、年間6万円の拠出でも12000円の税メリットがありますし、何より、資産形成は積立し続けることに重要な意義があるからです。

それでも、その5000円が拠出できないというのであれば、おそらくiDeCoの運用指図者になったところで、問題は解決しないのです。検討すべきところは「iDeCoの掛金をどうするか」ではなく家計全体で、収入や支出をしっかり見直さないといけない状況にあるはずなのです。安易にiDeCoの運用指図者になっても、根本的な家計の問題が解決されなければ、iDeCoの機会損失ばかりか、家計破綻の危機が訪れるでしょう。

実は、国民年金基金連合会の調査によると、運用指図者も2021年2月現在で69万6807人と報告されていて、こちらも年々増加傾向にあります。ネット上のQ&Aでは、「掛金の拠出が困難な場合は運用指図者になれる」と回答されていますので、そのまま運用指図者になる方もいるのかもしれません。もちろん間違った回答ではないのですが、本来はもっと本質を考えるべきでしょう。

iDeCoは任意加入なので「強制的に加入させられた」という方はいないでしょうけれど、企業型DCは自分の意思で始めたのではないと言う方もいらっしゃいます。しかし、国民一人ひとりが自助努力で資産形成をすることが必須の今、始まりはどうあれDCに出会えたことをラッキーと思い、ぜひしっかりと活用していただきたいものです。