母を偲びながら片づけを

着替えを終えた辰雄を車に乗せ、法要に向かい、加奈子の墓参りを終えた勝美たちは実家に再び戻ってきた。

着替えに向かった辰雄に聞こえないように祐太朗に声をかける。

「ごめん、ちょっとこの家を掃除してから帰ってもいい?」

「うん。俺も手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。もしあれだったら、お父さんの話し相手でもしてて」

「分かった」

そう言って祐太朗は着替えて居間に戻ってきた辰雄の斜め向かいに座り、テレビを見ながら笑顔で話しかける。

勝美からすれば憎くてしかたない辰雄だが、祐太朗にはこうして時間をつぶす話し相手になることへの抵抗感はないらしい。祐太朗の気さくさに感謝しながら、勝美は掃除に取りかかった。

キッチンシンクの下からゴミ袋を見つけ出し、居間のゴミをまとめていく。たいていは捨てても問題ないものばかりで、分別に気を付け、苛立ちさえ飲み込めればすぐに片付いた。

勝美が片づけをするのは、辰雄のためではなかった。この悲惨な部屋の有様によって辰雄に日々怒鳴られながら、懸命に掃除をしていた母の努力が踏みにじられているような気がしたから、勝美は黙々と手を動かし続けた。

次に取り掛かったキッチンはひどい惨状で、シンクからは異臭が漂い、覗いてみると切りかけの食材が無残に捨てられたまま、カビだらけになっていた。料理でもしようと思いつき、あっという間に挫折したのだろう。その証拠に、冷凍食品の空容器や皿などが無造作に放置されていた。

どれだけ威張ってみても、1人ではまともに料理することすらできない。そんな状況で生きるしかない辰雄のことが、ふと哀れに思えた。

勝美は蛇口から流れる水の勢いを強くして、頭の片隅に浮かんだ同情的な考えもろとも洗い流してしまおうと思った。

押し入れから出てきた封筒

台所の掃除を終えた勝美は、寝室へと向かった。

この2年間、1度も洗ってないことが想定できるベッドはさすがに触る気にはなれず、まずは床に散乱しているゴミを拾うことにした。窓を開け、埃が充満した空気を入れ替える。半開きのまま戸が外れている押し入れの隙間から、加奈子が使っていた裁縫箱や化粧道具などが押し込められているのが見えた。

懐かしさに背中を押され、勝美は思わずそれらを手に取った。加奈子がかつて使っていたことを思い出すと、目頭が熱くなって胸が締め付けられる。涙をこらえながらも他に何かないかと押し入れのなかを探していると家計簿ノートが出てきた。

ページをペラペラとめくっていると一枚の封筒がノートから床に滑り落ちた。拾い上げると、封筒のまんなかには母のきれいな字で“勝美へ”と書かれていた。

●母の三回忌で1年ぶりに実家を訪れた勝美。別人のように老いた父・辰雄が1人で暮らす家は、ゴミで溢れかえっていた。掃除していると、押し入れから母・加奈子が残した手紙を発見する…… 後編【亭主関白で横暴だった父を許せなかった娘…母が押し入れに隠していた手紙に書かれていた「意外な真実」】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。