亭主関白だった父への恨み
1年前とはまるで違う家のなかの様子に、勝美は言葉を失った。
辰雄は何事もなかったかのように座椅子に座りテレビを見始める。顔を見合わせると、祐太朗も居間の惨状に苦笑いを浮かべていた。
「ねえ、お父さん、いつからこんな状態なの? 掃除はしてないの?」
「……別にいいだろ」
母が生きていたときは、絶対にこんな状態になり得なかった。加奈子が掃除や洗濯、料理などをとても丁寧にこなす性分だったというのもあるが、それ以上に――
「あんなに掃除をしろとか偉そうにお母さんには言ってたくせに、1人になったらこの体たらくなの? 情けない」
勝美は思いつくかぎりの恨み節を、衣装ダンスの鏡の前に立ち、ネクタイを結んでいる辰雄の背中に向けて吐き捨てた。
勝美は加奈子が亡くなる以前から、実家に帰るのおっくうだった。
理由は辰雄のことが嫌いだからだ。地元に帰ってきても外で母と食事をするだけで実家には立ち寄らず、ホテルに泊まって帰るくらいに、顔も見たくないと思ってきた。
辰雄は亭主関白な気質の持ち主で自分勝手な人間だった。勝美とも衝突することはあったが、それ以上に加奈子に対しては恋愛結婚をしたとは思えないほど横柄で傲慢な態度をとり続けていた。
食事を作っては味が薄いだの、おかずが少ないだの文句をつけられ、タンスの上に少しでも埃を見つければ「家にいるくせに使えん」と母を罵った。
辰雄がいるせいで、毎日が最悪だった。この家の中に、いい思い出はない。だから加奈子には悪いことをしたと思いつつも、大学進学を機に家を出ることができたとき、本当に嬉しかった。
